副業という言葉の功罪

「副業」という言葉が一般化することで
以前よりも自由な選択を取りやすい世の中になりました



「本業」という生活安定させるための軸がありながらも
「副業」として本業とは別に関心のあることに時間を使ったり新しい収入をつくる仕事の選択ができる



『生活の安定をさせつつ、新しいことに挑戦しよう。』



そんな誰しもが「うんうん。」と納得していそうなメッセージに
敢えて僕なりの問題提起をしてみたい


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まず結論から
副業の広がりと共に僕が捉えている問題は「エネルギーの分散」について


当たり前のことだけれど
人間が1日に使えるエネルギーの上限は決まっていて
あらゆる事に対して平等にエネルギーを注げるわけではありません


日常生活のことを例に考えると
仕事が忙しくなると普段の生活が疎かになったり
恋愛で悩みが出ると勉強に手がつかなくなったりします
エネルギー量は有限なため、全てのこと平等に力を注げないのです



副業は経済的な視点で見れば
生活の安定があり安心感のあるものですが
エネルギーの視点から見るとそれは分散でしかありません



ぼくは「副業解禁」という社会メッセージが広がるとき
「新しい収入源」「生活の安定」「選択の自由」などのポジティブな概念のみが
副業という言葉を包み込んでいる状態が非常に違和感でした



その違和感は「エネルギーの分散」という視点の欠如です



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本業の仕事にやりがいを感じ
収入にも満足がいっている田中さん(フィクション)を例に
この副業の功罪を考えてみましょう



田中さんは小さい頃から絵を描くのが大好きで
文字通り寝食を忘れ絵を描いていました



いっときは芸術大学への進学も考えましたが
勉強も比較的得意だった田中さんは難関大学T大学に進学することに



そのまま大手広告代理店への入社を決め
現在はアートへの関心や経験も活かし、クリエイティブディレクターを務めています



生活や仕事が安定した現在は
昔から関心のあった絵画教室に週末だけ通うようになりました

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こんなストーリーを聞くと
世論としては田中さんの人生を成功事例として扱うと思います
経済的にも安定し、自分が興味ある分野にも力を注げて本当に素晴らしいよね、と


ただ僕の場合はこんな”綺麗な副業のストーリー”を聞くと
「もし田中さんが100%のエネルギーを絵画に注いだらどうなるか?」
なんてことを想像してしまいます



こんなストーリーを”成功事例”として扱ってしまう背景に


「経済的安定を捨ててまでやる必要ない」と考える点があると思います
(このケースでは田中さんは自分の仕事を気に入っているから尚更)



つまり副業が社会的に大きなトレンドになる理由は
「経済的安定」という要素が極めて重要視されているところにあります



もちろんここに対して僕も異を唱えることはありません
生活を安定させつつ新しい挑戦を行う田中さんの選択は極めて合理的で、理にかなっています



ただ冒頭の問題提起に立ち戻ると
この”経済合理的な判断”により失われしまったエネルギーの分散についても
考えるべきではないかと僕は思います


現代では経済性という大きな重力に
僕らは意思決定を委ねすぎているのではないかということです


不安定な社会です
パンデミックも起こり、いつどこで何が起こるかわからない世界において
経済的な安定を基盤に置くという思考はよくわかります


一方で僕たちは
”並行すること”に慣れすぎてしまったようにも感じます


大人になると気がつけば守ることばかりに意識がいってしまい
子供のころのように無邪気に熱中することが少なくなります


並行して複数の選択をできる社会は
一見豊かな世界に向かっているようにも見えたり
”大人な選択”をしているように感じますが


そういった無意識に行われている経済合理的な意思決定が
人々から幸福や豊かさを少しずつ奪ってしまっているのではないか?とも度々考えます


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副業という言葉の広がりは冒頭の書いたとおり
ポジティブな印象だけを残し社会に広がっていますが



トレードオフとして「一つのことに熱中する幸せ」を奪う可能性もあるのではと危惧していますし
更に並行した行動=エネルギーの分散を助長するのではないかと考えます



一つのことに熱中することは経済的には1円の価値も生まないかもしれないですが
目に見えない「豊かさ」という価値を生み出してくれます



むしろ経済的安定を捨てることになったとしても
「何か一つのことにエネルギーを100%注げる」ということは
人が生きる上で十二分に”合理的”であると考えます



目に見える数値ばかり追っていては
気づいたときに大きな何かが失われているではないでしょうか

「副業という言葉の功罪」
金田謙太

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